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2021年1月21日 (木)

焼肉の作法

    

20210119-110519

  

もうずいぶん前です。

2011年の月刊化学に掲載された拙文です。

焼肉に関して、こんなこと言ってました。

おヒマでしたらご笑覧ください。

  

      

〜化学者には肉を焼かせろ〜

    

一流の合成化学者は一流の料理人でもあると言うのは万国共通で、化学者には料理の得意な人が多い。というのも合成実験というのはCookingそのもので、レシピどおりに作ればおいしい料理ができる訳ではなくて、そこは勘とかセンスとか経験なんかが極めて重要になってくるからだ。

たとえば、すき焼き。筆者はすき焼きが「好き」どころか「愛してる」くらいで、巨大隕石が地球にぶつかる人類滅亡の日の前夜の晩餐はすき焼きと決めている。大阪では、すき焼きは割り下は使わず、醤油と砂糖と水だけで調理する。火加減、肉の焼き加減、砂糖投入のタイミング、醤油の量などなど、極めて感覚的でセンスを必要としていて、これを間違えると高級な松坂牛でも豚肉以下になる。実はこの作業、まさしく合成実験と同じで、溶液の温度、撹拌の仕方、試薬滴下の絶妙なタイミングと速度、それで収率が決まる。まさしく大阪風すき焼きなのである。

だから、すき焼きをお客さんといただく時には、その調理する姿を見ればその人の化学者としての能力を判断することができる。味が薄い、濃い、煮込み過ぎ、とにかく合成化学者的能力がそのまま味に反映されるからおもしろい。特に、一人でキッチンで行う料理と違い、会話を楽しみながら、日本酒なんかをチビリチビリとやり、時にはゲラゲラ笑い、同時並行ですき焼きを調理するのは聖徳太子並みの情報処理能力が必要となってくる。すき焼きを仕切れる人は間違いなく一流の化学者なのである。

そんな肉食系の筆者、焼き肉にもうるさい。

研究室志望の学生が見学に来ると焼き肉屋に連れて行く。そこで肉の焼き方を見て、その能力のほどを判断するのだ。一番ひどいのは、とりあえず網の上に肉を目一杯並べるヤツ。このようながさつな人間は合成をやらせても収率は低く、とにかく合成化学者として期待薄である。次に、肉を網のうえに置いたままおしゃべりに夢中になり、焼き過ぎ焦がすヤツ。こいつは実験をやらせても注意散漫でフラスコを割り、装置を壊し、とにかく金がかかる要注意人物である。また教授を前にしながら焼けた肉に真っ先に箸を出すヤツ。こんな空気を読めない非常識な輩は卒業して就職しても出世できないとあきらめる。また、カルビ、ロース、ミノなど順番に網の上に乗せて丁寧に焼く学生。まあ、これは一見丁寧な仕事をして期待できそうだけど、シリアル的に物事を処理するので仕事が遅い。テキパキ、ビシバシ、実験して結果を出しまくるなんて期待できないのだ。

優秀な合成系化学者の理想的な肉の焼き方とはこうである。まず、人数分の肉を網に乗せる。肉の厚み、種類で最もおいしい焼き加減をとっさに判断し取り分け、最高の状態でいただく。肉に対する尊敬の念を忘れず他人に対する配慮も怠らない。また、焼きに時間がかかるミノなどはその焼き時間を考慮して少し脇に寄せながらじっくり焼き、平行して焼きに時間のかからないロースなどをいただく。要するに肉を種類によってパラレル処理するのである。

これをビールをグビグビ飲みながら、時にバカ笑いしながら、他の教授の悪口を言いつつソツなくこなせるようにならないと大学教授としても務まらない。

しかし、そんなこと考えながら学生と焼き肉食べてるのは筆者だけだろうか。

     

   

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